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技術と政治について書いていきます

Legal techよりLaw makeをhackする

 リーガルテックが話題になることが増えました。最近だと弁護士ドットコムのクラウドサインが注目されました。この分野は引き続き多くのプレイヤーが集まりますが、法律を出来た側から見るのが弁護士業界であり、それをテクノロジーで効率化するのが「リーガルテック」と認識してます。

 

 わたしはlaw make、即ち、法律を作る過程/出来る前の過程をテクノロジーでhackしようという考えを持っています。hackというと大げさですが、今のプロセスや非効率の要因を深く理解し、それをテクノロジーで解決できるプロダクトを提供したいということです。あまり知られていないかもしれませんが、政治家はpolicianだけではなく、low makerとも英訳されます。名前の通り「法律を作る人」です。正確には「法律と予算を決める(rule make)」のが政治家の仕事で、その過程は前回触れている様に、非効率が構造的に存在します。

 

 そんな中、いまlaw make/rule makeの過程を既にhackしている人たちがいます。それはロビイング会社や業界団体・利益団体などです。最近話題の所だと、受動喫煙防止条例の件で国や都が話題になっていますが、条例を反対しているタバコ関連企業(やその支持を受ける政治家)が裏側で動いているというのは周知の事実です。必ずしもロビイング会社や業界団体・利益団体が悪ではないですが、上記の通り、社会的に見ると明らかにネガティブな事象に関しても、自社・自分たちの利益確保のために政治に働きかけているケースは、私たちの知らない間に起こっており、上記のケースは最たる例です。

 技術と遠いはずのこの業界、人種が「hackしている」と言うと変な感じですが、プロセスや構造、行動原理を把握し、上手く活用していると言う点でlaw make/rule makeの過程をhackしていると言え、知らない間に社会的な損失を受け、その事にさえ気づかない人たちが多くいるのです。

 これまでの人口が増え、経済成長が続いていた時代においては、それも認められましたが、これから経済成長は鈍化し、限られた税金・パイを効率よく配分する必要が出てくる為、本当に必要な課題/分野においてrule makeをしていくことが重要です。そのことは目に見えているので、上記の構造を変え、Law make/rule makeの過程を正しくhackしたい、と考えているのです...!

 

 またスタートアップなどイノベーションを生む企業においても、rule makeは無縁ではないです。過去の日経新聞の記事を取り上げます。「イノベーションとルール」という特集です。法務インサイドのコラムですね。全4回に渡り、日本企業のルールメイキングについて課題提起をしています。

 ぜひ、下記より全文をご覧頂きたいですが、少し引用しつつ解説します。

・ルールメーク、日本の課題とは 専門家に聞く イノベーションとルール(1)

・企業とルール、どう向き合う 専門家に聞くイノベーションとルール(2)

・法支援をビジネスの追い風に 専門家に聞くイノベーションとルール(3)

・物作りからルール作りへ 専門家に聞く イノベーションとルール(4)

 

イノベーションとロビイング

 「新しい技術やビジネスモデルを展開する企業への法的アドバイスを数多く手掛ける水野祐弁護士」の発言です。

・「ルールは現実を後追いして作られるものだが、インターネットの進展によって現在は法と現実が乖離(かいり)する『法の後れ(Law Lag)』がこれまでになく広がっている時代だ。グレーゾーンの解釈が最も難しく、面白い時代ともいえる。ルールを『超える』というのは破ることではなく、ルールを主体的に考えて関わり、生かしていくべきだと考えている」
 ・「もちろん、ビジネスをする上で法務部門を早い段階で巻き込んでいくのも大事だ。法律家には法律で全てを考えがちな傾向があるが、正解はサービスの仕様や当局とのコミュニケーション(ロビイング・広報)という場合も増えている。最適解が法律の枠内にとどまらないことも踏まえ、幅広い視野を持ったイノベーションの担い手になっていきたい」 

 法律の分野にもイノベーションやクリエイティブが求められつつ有ります。企業の法務というと法律に照らし合わせて締結する契約書をチェックする、という役割だとイメージとして持ちがちですが、インターネットの進展により、企業がどう政府と付き合うか、法律と向き合うか、その上で、どういったルール形成を行うべきか、が問われる時代になりました。政策形成という側面で効率化の必要性をこれまで取り上げましたが、企業の法律への向き合い方、ルールづくりにも変革が求められています。

 これは先ほど書いた法律を出来た側から見るのではなく作る側から見るということですね。

 

ベンチャー企業とロビイング

 政府とベンチャー企業という一見相反するセクターにおけるルールメイキングの必要性も述べられています。マネーフォワードの瀧氏は、提言+具体的な事業形成が大事だと述べており、また、LINEの江口氏も法的な動きを予見し先だって対応する必要性を強調しています。

 ・「ロビイングを頑張るという企業もあるが、単純にモノを言うだけでは響かない。大企業はレントシーキング(都合良く規制を設定)して限られたパイを奪ってくるが、ベンチャーは新しい市場を作ることで、今はできないことを提言していくことが大事だ。『存在するユーザー数×便利さ』の面積を広くしていくことで、影響力を高めていくほうがいい」(フィンテックベンチャーであるマネーフォワード(東京・港)の瀧俊雄・フィンテック研究所長)

・ 「そもそも法律とは、過去誰かが何かをやらかしたからあるもの。イノベーションとは新しいことであり、誤解を招いてはいけないが、法の隙間を狙うことでもある。それを不用意にやればたたかれてしまうので、先に『法の壁』を予見し、変えていく。そういう仕組みを作っておけば、我々の後に続いてくる革新的な企業たちにも役立ててもらえる。今、ネット分野で先頭を走っているLINEとしての社会貢献にもつながると思っている」(LINEの江口清貴・公共政策室長) 

・「2014年1月に仮想通貨の取引所を立ち上げた。その翌月にマウントゴックスが破綻し、ビットコインすべてが詐欺のように扱われる時代もあった。『このままでは終わる』と思いロビイングを決意した。日本価値記録事業者協会を立ち上げて、多くの業界団体、政府、省庁の関係者に説明をした。最初は『ふーん』と言われて終わりで、非常にネガティブな反応だった。もちろん自主規制に反対する事業者もいたが、粘り強くロビイングを続けて、施行に至った」(仮想通貨取引所を運営するビットフライヤー(東京・港)の加納裕三社長)

 

 こういった形で日本における新興企業がrule makeに関わっていくケースが増えて来ており、今後社会を一変させる様な技術であれば尚さら、社会実装に際してrule makeへの関与が必要になります。

 

 わたしはこういった新しい市場を創造する企業や、旧来のプレイヤーにより社会的に損失を被る方々、そして、いま目の前で困っている政治家の方々を助けたいという想いでこの分野に興味を持ち、動き始め、その想いはふつふつと日々募っています。いち早く、これらの課題解決に寄与できる様、引き続きサービス/プロダクト開発を進めていきます!